ニシローランドとヒガシローランドによる2人組のHipHopクルー Gorilla Attack
そんな彼らのEP『Gorilla City』より「Gorilla Step」からラップのリズム・デザイン(譜割)の考え方を学んでいこうと思います。
楽曲はこちらから
Hook
ポップスでいうところのサビのことをHipHopの世界ではHook(フック)と言います。
Gorillaに言葉はいらないから わからなくていい 無理しなくていい ダンス 跳躍 衝動 置いたふたりきりフロア 君は間違ってないよ Gorilla Stepを信じろ
HipHopのHookは短いメロディが何回もリフレイン(繰り返し)されるのが一般的ですが、この曲はポップスと同じようにどんどんメロディが進んでいくHookになっています。
ある意味ポップスっぽいので、完全なHipHopに馴染みがない人でも聴きやすい楽曲ではないでしょうか。
Verse1:ヒガシローランド パート
嫌になるくらい 分からされてるんだ もう何回目だろう? 自分だけ違う言葉を話している国(RU KUNI) 行き場なく彷徨う指(U YUBI) 痛みに慣れていくごとに 光も見えなくなる そういう時に、言い聞かせてるんだ あの日のGorillaはいろいろ背負ってたよな 暗闇から窺う眼は爛々と(RANRANTO) 当てもなく彷徨い目指した南南東(NANNANTO)
このパートを担当するヒガシローランドさんの大きな特徴といえば歌とラップをうまく混ぜ込んだフロウ(歌いまわし)です。
「〜もう何回目だろう?」までは完全に音程のある歌ですがそこからは、歌というよりはラップにいつの間にか変わっています。
普通にU-U-IやA-N-A-N-Oで韻を踏んでいるのですが特筆すべきはライム(押韻)ではなく、ラップのリズムパターンです。
自分「だけ」「違う」「こと」「ばを」みたいに「タタンッ!タタンッ!」というリズムが規則的に繰り返されています。
実はこの「タタンッ!タタンッ!」というリズムは現代のアメリカの音楽で大流行しているリズムパターンから来ています。
「スコッチ・スナップ」というリズム
「タタンッ!タタンッ!」と
アクセントのある短い音にアクセントのない長めの音が規則的に続くリズムのことを
『スコッチ・スナップ(スコットランド・スナップ)』と言って、現代のアメリカのHipHopやポップスを中心に大流行中のリズムです。
『スコッチ・スナップ』が使われている曲を上げていくとキリがないくらい現代では人気!
そんな『スコッチ・スナップ』の起源はスコットランドの伝統音楽に特徴的に見られるリズムです。
スコットランドのリズムがなぜ現代のアメリカの音楽に頻繁に現れるか?
それはアクセントのある短い音節が語の最初に来る事の多い英語の発音と相性が良いからだと言われています。
しかし、日本語にはアクセントが無いので、このリズムに日本語を乗せるのはなかなか大変そうですがそれをやってのけているのがヒガシローランドさん!
しかも何がすごいって、『スコッチ・スナップ』を自分の中にうまく昇華させているのです。
ヒガシローランド式『スコッチ・スナップ』
ここまで話しておいてなんですが、ヒガシローランドさんのは厳密に言うと『スコッチ・スナップ』ではありません。
とはいえ、『スコッチ・スナップ』を意識しているのは明らかで、後ろの8分音符に付点がついているかいないかの違いです。

『スコッチ・スナップ』自体に疾走感があるのですが、後ろを8分音符に短くする事でさらに前のめりになっていくのを感じます。
かなり独創的なのですが、その弊害(?)としてリズムキープがとにかく難しい…!
付点が無い分短いので、次の音符が16分音符分どんどんと前にズレてくるのです。

ヒガシローランド式『スコッチ・スナップ』をモノにするには圧倒的なリズム感が必要ですね…!
Verse2:ニシローランド パート
ニシローランド節炸裂のパート。
16分音符主体で早口めの男らしいゴリゴリラップでめっちゃカッコいいですね!
滑稽なライフ 味もしないなら(NAINARA) 噛み続ける理由が見つからない(NAI) だから(DAKA)フリック
A-I-A-Aのライム(押韻)
後半が文を跨いで韻を踏んでいるのが秀逸。
この部分「味もしねぇなら」「〜理由が見つからねぇ」としか聞こえませんが、仮にそうだとしても韻は踏めてるので特に問題はありません。
飽和した(TA)シーン(síːn) 抜け出しても小箱で オンザ(ðə)ビート(bíːt) ずっと遠くて近い(KAI) 触れられない(NAI) 関係だったな まるで影と光(KAGETOHIKARI) 夢にまで見た満席のステージ もうそこには誰もいない(DAREMOINAI)
「シーン(scene)」「ビート(beat)」は英語発音していて、その場合の母音は一緒なので韻が踏めます。
「ちかい」「ない」とA-Iのシンプルなライミング(押韻)からの「影と光」「誰もいない」でA-E-O-I-A-Iと6文字で一番長い韻を踏んでいます。
「味もしないなら噛み続ける理由が見つからない」って歌詞ちょっとブルゾンちえみっぽいですね。
味のしなくなったガムをいつまでも噛み続けますか?ってネタのやつ…w
いつから(ITSUKARA)かワンマンのショーケース(ʃóʊ) でも自ら(MIZUKARA)を演じよう(dʒˈɔː)としていて 埃被る58(GOPPACHI)を眺める 捨ててきたものはなんだっけ(DAKKENA)な 踊ろう(ROU) また踊ろう(ROU) 景色変われど耳には都会の喧騒(SOU) 目に入る(haɪl)朝焼けと暗く(klαk)なったダンスフロア(flˈɔɚ)
日本語を英語っぽく発音することよって韻を踏んで箇所が多く見受けられます。
「演じよう」は「えんジョー」というような発音をしています。
正しいかわかりませんが、一応「JAW(dʒˈɔː)」の発音にしています。
それと同様に
「入る」は「Hyle(haɪl)」、「暗く」は「Clock(klαk)」のような発音をしています。
日本語を英語風の発音を変える事で踏めないはずの韻を踏むという高度な技術が使われています。
「入る」だけ韻踏んでいるかが微妙な所ですが、発音する際の舌の形が似ているので押韻していると思われます。
「58(ゴッパチ)」と「だっけ」は「っ」が共通しているので一応ライムとして取り上げています。
ちなみに、「58(ゴッパチ)」というのはSHURE社のマイク『SM58』の事で、その通称を「ゴッパチ」または「ゴッパー」と言います。
一般的にイメージするマイクはこの『SM58』のことであることが多いです。

Verse3:3連符のリズム・デザイン
2000飛んで20(NIJU) ゴリラ大海を知る(SHIRU) ディープなサウンド(sάʊnd) 溢れる箱 音の海へダイブ(dάɪv) だけど忘れられない痛みがまだあるんだ これはどうすればいい?東くん? 誘って、あわい点滅をあじわえば 抜け出せるのかもね 禅問答に終始した人生 下手なダンスで濁して 飛んじゃうボーダーライン
シンプルなライムですが、今度は全体的に3連符主体のリズムになりました。
この3連符も海外のHipHopを中心に流行っているリズム・デザインです。
HipHopが進化していってTrap(トラップ)という音楽ジャンルが生まれた事により、従来のHipHopの主流テンポが変わってきたため、ラップもそれに合わせて3連符中心のリズムになることが多くなりました。
詳しくは下記記事をご参考ください。
もちろん3連符というリズムはクラシック音楽の時代からある伝統的なリズムではありますが、近年のHipHopまたはポップスほど3連符が主体になったメロディの楽曲は音楽の歴史上、そう多くなかったのではないでしょうか。
4分音符、8分音符、16分音符という従来の枠(?)から出たある意味新しいリズム・デザインに世界中の人々は感銘を受けたのでしょう。
しかも『スコッチ・スナップ』と違って、3連符のリズムは3文字で区切れることの多い日本語と相性が良いリズムと言えます。
まとめ
- 英語という言語が持つグルーヴと相性の良い『スコッチ・スナップ』
- 独自昇華させたヒガシローランド式『スコッチ・スナップ』
- 日本語と相性の良い3連符のリズム
- 日本語を英語のように発音するライムテクニック
ラップパートがこの曲には3つあってそのパートごとにリズム・デザインが大きく違っています。
・Verse1はヒガシローランドさんの独自『スコッチ・スナップ』でのラップ
・Verse2はニシローランドさんの16分音符主体のカッコ良いゴリゴリのラップ
・Verse3は3連符のリズムが中心となったラップ
大きく主体のリズムが違っていることで各パートワクワクしながら聴ける楽曲ですね!
実は日本語というのは発音的に音楽向きの言語ではない(特にラップ)と言われているのですが、そんなことGorilla Attackのお二人(二匹?)には全く関係なく、こんなにカッコ良くできるのです。
日本語には無限の可能性があるということですね!
日本のHipHopシーンはまだまだ明るい。
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おしまい。
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